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きみのとばり

私なら、貴方の目をそっとふさいでやることができるよ。柔らかいシーツのしわ、滑らかなベルベット、真水のように流血のように指の間をすりぬけるくらやみを持っている私なら。貴方のまぶたをそっとつつみ、耳に栓をして、くちびるを指でふれておやすみとだけ言えばいい。貴方のなかからもれだすものはもう何もないよ、すべて私がたいらげた。貴方にはもう、かなしみを感じる手立てはない、意思を失ったまぶたは重力に負けるだろうね……。
すべて幻だよ、そう言えたらな。貴方の隠し持っていたはらのなかみをすべて知ってしまったから、飲み込んでしまった針を引き抜くことができるよ、私になら。けれどその針の行く末はきっと私のはらわただ、ゆっくりと租借して、私は、君を二度殺すことになるだろう。体の中からそっと突き刺さるするどい尖端がどれだけ私を蝕むのかは、まだ知らない、涙を流す瞳の熱さすら。埋葬した悲しみに頭を垂れて貴方のしあわせを祈ること、それで癒えるものがあるだろうか。

(貴方に尋ねる最後の問題を考えている)

こそりとくすねたこころで選ばれた言葉は、ちゃんと自分の言葉として舌先を離れて行けるだろうか、音すら持たない夜だ、鼓膜を震わせる自信がないよ。身体中の水分を集めても、涙なんて出なかった夜の子供がひとの感情になにができようか……。

(さいごの夜をあげよう!貴方をいだくのは私のさいごのわがままだから……)

かなしみを知らなければよかったと、後悔をするにはもう遅すぎるのだ。貴方のために貴方を手放すことをどうか許しておくれ!ははよ、ちちよ、ちいさなおんなのこよ。死に至ることのない夜は訪れて、やさしい子供をさらってゆくだろう。咀嚼した感情で私は喚く、どうか彼女にさいわいあれ……。

(ああ、滑稽だなあ)
(私は私のさいわいを手放すくせにね……)

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